不倫や浮気があったからといって、必ず慰謝料が認められるわけではありません。法的にはいくつかの条件があり、どれか一つでも欠けると請求が難しくなることがあります。
このページでは、不貞行為の慰謝料請求が認められるための条件を一つずつ整理し、あわせて減額されやすいケース、条件を満たしているかを確認する手順まで解説します。判断は事案ごとに異なるため、記載は一般的な考え方としてご覧いただき、個別の見通しは弁護士にご確認ください。
慰謝料請求が認められる4つの条件
不貞行為を理由とする慰謝料請求では、おおむね次の四つが問われます。
- 不貞行為(原則として肉体関係)があったこと
- 不貞の時点で婚姻関係が破綻していなかったこと
- 相手に故意または過失があったこと
- 時効が完成していないこと
以下、それぞれを詳しく見ていきます。
条件1:不貞行為があったこと
慰謝料請求の対象となる不貞行為とは、原則として配偶者以外の異性との肉体関係を指します。ここが出発点です。
不貞行為にあたるとされやすい例
二人でラブホテルに出入りしている、宿泊を伴う旅行に一緒に行っている、深夜から翌朝にかけて相手方の自宅に滞在している。こうした状況は、肉体関係を推認させるものとして扱われます。
肉体関係そのものを直接記録することは通常できないため、実務ではこうした客観的な状況の積み重ねで判断されます。
不貞行為とまでは言いにくい例
二人で食事をしていた、頻繁にメッセージをやり取りしていた、手をつないで歩いていた。こうした事実だけでは、不貞行為があったとまでは評価されにくいのが実情です。
ただし、これらがまったく無意味というわけではありません。関係の親密さや継続性を示す補強材料にはなります。「精神的な不倫」だけでは慰謝料が認められにくい一方、悪質性が際立つ場合には一定の判断がなされることもあります。
一度きりの関係でも認められるか
回数が少なければ認められないというものではありません。一度の関係であっても不貞行為にはあたります。ただし、継続的な関係と比べれば、金額は低く評価される傾向があります。
条件2:婚姻関係が破綻していなかったこと
不貞行為があった時点で、すでに夫婦関係が修復不可能なほど破綻していた場合、保護すべき利益がなかったとして慰謝料が認められない、あるいは大きく減額されることがあります。
破綻していると判断されやすい状況
長期間の別居が続いている、離婚に向けた具体的な話し合いが進んでいる、生活費の支払いも交流も途絶えている。こうした状況では、破綻していたとの主張が通る可能性があります。
破綻していないと判断されやすい状況
同居を続けている、家計を共にしている、日常的な会話や家族としての行事がある。こうした実態があれば、夫婦仲が良好でなかったとしても、破綻していたとまでは認められにくくなります。
不貞相手から「夫婦関係は冷え切っていると聞いていた」と主張されることがありますが、それは配偶者の説明にすぎず、実際の生活実態が重視されます。
別居していれば必ず認められないのか
そうとは限りません。単身赴任や親の介護など、事情による別居であれば、関係が破綻していたことにはなりません。別居に至った経緯、期間、生活費の負担、連絡の頻度などから総合的に判断されます。
条件3:相手に故意または過失があったこと
この条件が問題になるのは、主に不貞相手へ請求する場面です。
不貞相手に責任を問うには、その人が「既婚者だと知っていた」か、「不注意で知らなかった」といえることが必要です。独身だと偽られており、そう信じたことに落ち度がないと認められる場合には、責任を問えないことがあります。
判断材料になるのは、二人の関係性やこれまでの経緯です。職場の同僚である、共通の知人がいる、家庭の話を聞く機会があった、指輪をしていたといった事情があれば、知り得たと評価される方向に働きます。逆に、マッチングアプリで独身と登録されていた、家庭の存在をうかがわせる事情がまったくなかったという場合には、過失がないと判断される余地があります。
なお、配偶者本人に請求する場面では、この点はほとんど問題になりません。自分が既婚であることは当然知っているためです。
条件4:時効が完成していないこと
一般に、損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効にかかるとされています。実務で問題になるのはほとんどが3年です。
ここでいう「知った時」とは、不貞の事実と、相手が誰であるかの両方を把握した時点と考えられています。相手の身元が最近わかったという場合は、そこから起算される余地があります。
詳しくは慰謝料請求の時効をご覧ください。
条件を満たしていても減額されやすいケース
四つの条件を満たしていても、金額が抑えられる事情があります。
婚姻期間が短い場合。結婚して間もない時期の不貞は、長年連れ添った夫婦の場合と比べ、低く評価される傾向があります。
不貞が短期間・少数回にとどまる場合。継続性がない関係は、悪質性が低いと判断されやすくなります。
婚姻関係を継続する場合。離婚に至らなかった場合、被った損害は相対的に小さいと評価される傾向があります。
請求する側にも落ち度がある場合。不貞以前から家庭を顧みていなかった、暴言や暴力があったといった事情は、減額要素として考慮されることがあります。
相手に支払能力がない場合。法的な金額とは別に、現実の交渉では回収可能性が影響します。
反対に、婚姻期間が長い、未成年の子がいる、不貞が長期間続いていた、妊娠に至った、離婚や別居に至ったといった事情は、増額の方向に働きます。
条件を満たしているか確認する手順
ご自身の状況を整理する際は、次の順序で確認すると判断しやすくなります。
第一に、手元の材料を時系列で並べます。メッセージのスクリーンショット、写真、クレジットカードの明細、帰宅時間の記録などを日付順に整理します。それだけで、関係の継続性や不自然な行動のパターンが見えてくることがあります。
第二に、肉体関係を推認させる材料があるかを確認します。ホテルへの出入りや宿泊の記録があるかどうかが分かれ目です。ここが不足していると、否認された際に立証が難しくなります。
第三に、不貞の時期における同居や生活の実態を確認します。破綻の主張に備え、家計を共にしていた記録や日常のやり取りが残っているかを見ておきます。
第四に、相手の身元と、既婚を知り得た事情を確認します。氏名と住所がわからなければ請求書面を送れません。
第五に、いつ知ったのかを整理します。時効の起算点にかかわるため、把握した時期を記録や記憶からたどります。
この段階で不足が見つかった場合、追加の調査が必要かどうかを検討することになります。
証拠の種類別・条件を満たすうえでの評価
「不貞行為があったこと」を示すために、どのような材料がどこまで役立つのかを整理します。
単独で強い証拠になりやすいもの
二人がラブホテルに入り、一定時間後に出てくる様子を日時とともに記録した写真や動画は、肉体関係を推認させる材料として重視されます。同様に、宿泊を伴う旅行の記録や、深夜から翌朝にかけて相手方の自宅に滞在していた記録も有力です。
重要なのは、二人の顔が判別できること、日時が特定できること、出入りが一連の流れとしてわかることです。この三点が揃っていないと、別人である、別の用件だったといった反論を招きます。
補強材料として意味を持つもの
親密なやり取りが残るメッセージ、ホテルや旅行先の領収書、交通系ICカードの利用履歴、車の走行記録などは、それ単独で不貞行為を裏づけるものではありませんが、状況を補強する材料になります。
特に、継続的な関係であったことを示すうえでは有用です。複数の材料が同じ方向を指していると、全体としての説得力が高まります。
取り扱いに注意が必要なもの
相手のスマートフォンを無断で操作して取得した情報、承諾なくGPS機器を取り付けて得た位置情報、他人のアカウントへ無断でログインして取得した記録などは、取得の過程そのものが問題視されるおそれがあります。
せっかく集めた材料が使いにくくなるだけでなく、こちらが責任を問われる立場になりかねません。進め方に迷う場合は、実行する前にご相談ください。
相手が反論してくる典型的な主張と備え
請求を受けた側は、条件のいずれかを否定する形で反論してきます。よくある主張と、それに備えて用意しておきたい材料を挙げます。
「肉体関係はない」という主張。食事をしただけ、相談に乗っていただけ、という反論です。これに対しては、宿泊やホテルへの出入りといった客観的な記録が有効です。
「夫婦関係はすでに破綻していた」という主張。これに対しては、不貞の時期に同居していたこと、家計を共にしていたこと、日常的なやり取りがあったことを示す材料が役立ちます。家族での外出の記録や、生活費のやり取りが残る通帳などが該当します。
「既婚者だと知らなかった」という主張。これに対しては、二人の関係性や経緯を示す材料が意味を持ちます。同じ職場である、共通の知人がいる、家庭の話題が出ていたことがわかるやり取りなどです。
「もう時効だ」という主張。これに対しては、不貞の事実と相手の身元をいつ把握したのかを説明できるようにしておく必要があります。相談した時期の記録や、相手を特定した経緯が手がかりになります。
あらかじめ想定される反論を踏まえて材料を揃えておくと、交渉の場で主導権を握りやすくなります。
証拠が足りないと感じたら
条件のうち、実際につまずきやすいのは「不貞行為があったこと」の立証と、「相手の特定」です。気持ちのうえでは確信があっても、否認されたときに示せる材料がないというケースは少なくありません。
この段階で配偶者を問い詰めてしまうと、相手は否認したうえで警戒を強め、証拠を消します。二人が口裏を合わせることもあります。結果として、以後の立証は一段と難しくなります。
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|---|---|
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条件を満たさない場合に取り得る選択肢
確認した結果、条件のいずれかを満たしていない、あるいは立証が難しいとわかることもあります。その場合でも、取り得る道がないわけではありません。
不貞の立証が難しい場合。現在も関係が続いているのであれば、これから調査を行って証拠を確保するという選択があります。過去の出来事を後から立証するのは困難ですが、継続中であれば材料を得られる可能性があります。
時効が近い、または過ぎている場合。不貞行為に対する慰謝料としては難しくても、離婚に至ったこと自体に対する慰謝料であれば、離婚成立時から3年と考えられています。離婚が最近であれば余地が残ることがあります。
相手が特定できない場合。配偶者にのみ請求するという選択もあります。また、調査によって相手の身元が判明することもあります。
婚姻関係の破綻を主張されそうな場合。慰謝料の金額としては下がる可能性がありますが、離婚条件全体の交渉材料としては依然として意味を持ちます。財産分与や親権の話し合いにおいて、事実関係が明確であることは有利に働くことがあります。
どの道を選ぶにせよ、まずは現状を正確に把握することが出発点になります。思い込みで諦めてしまう前に、一度整理してみることをおすすめします。
請求する側が知っておきたい心構え
条件の整理と並行して、進め方についても押さえておきたい点があります。
ひとつは、確証を得る前に相手を問い詰めないことです。最も多い失敗がこれです。否認されたうえに証拠を隠され、二人が口裏を合わせ、以後の立証が格段に難しくなります。気持ちとしては最もつらい時期ですが、ここを耐えられるかどうかが結果を分けます。
もうひとつは、感情と事実を分けて記録することです。「許せない」という思いと、「何月何日に何があった」という事実は、書き留める場所を分けておくと、後から見返したときに材料として使いやすくなります。
そして、一人で抱え込まないことです。慰謝料請求は法的な手続きですが、その前段にあるのは家庭の問題です。判断に迷う場面が続きますので、早い段階で相談先を持っておくと、精神的な負担も軽くなります。
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浮気や不倫の問題は、証拠集め・調査の依頼・慰謝料や離婚の手続きが連続してつながっていくことがほとんどです。この記事のテーマだけで判断せず、前後の段階についても目を通しておくと、次に取るべき行動を選びやすくなります。なお、法律上の個別具体的な判断については弁護士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問(FAQ)
肉体関係がなくても慰謝料を請求できますか?
原則として、法的に問題となる不貞行為は肉体関係を伴うものとされています。食事や連絡だけでは認められにくいのが実情です。ただし、関係の悪質性が際立つ場合には別の判断がなされることもあります。
別居中の不貞でも請求できますか?
別居していれば必ず認められないというわけではありません。別居に至った経緯、期間、生活費の負担、連絡の頻度などから、実質的に関係が続いていたといえるかが判断されます。
一度だけの関係でも慰謝料は認められますか?
回数が少なくても不貞行為にはあたります。ただし、継続的な関係と比べれば金額は低く評価される傾向があります。
相手が独身だと思っていたと言っています。
知らなかったことに落ち度がないと認められれば責任を問えない場合があります。職場が同じ、共通の知人がいるといった事情があれば、知り得たと判断されることもあります。
自分にも夫婦仲が悪くなった責任があります。請求できますか?
請求できないわけではありませんが、減額の要素として考慮されることがあります。どの程度影響するかは事案によるため、弁護士にご相談ください。
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参考にした法令・公的情報
- 民法(明治29年法律第89号)|e-Gov法令検索(不法行為による損害賠償は第709条・第710条、消滅時効は第724条)
- 夫婦(離婚等)|裁判所
- 探偵業の業務の適正化に関する法律(平成18年法律第60号)|e-Gov法令検索
まとめ
不貞の慰謝料請求は、不貞行為があったこと、婚姻関係が破綻していなかったこと、相手に故意または過失があったこと、時効が完成していないことという四つの条件で判断されます。
これらを満たしていても、婚姻期間や不貞の継続性、離婚に至ったかどうかによって金額は変わります。まずはご自身の状況がどの条件を満たし、どこが不足しているのかを整理することから始めてください。

